パン屋の開業資金は?開業への具体的な流れやメリット・デメリットを解説
パン作りの仕事に携わっている方の中には、いつかパン屋を開業して、自分だけのこだわりのある店を構えたいと考えている方も多いでしょう。
しかし、パン屋を開業するため開業届の提出のほか、運転資金の調達、食品衛生責任者の資格取得などさまざまな手続きを踏む必要があります。
また、パン屋経営の独自のメリットやデメリットもあるので、事前のリサーチを入念に行うようにしましょう。
本記事ではパン屋の開業の具体的な流れや、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
パン屋開業の特徴
パン屋の開業には、いくつかの大きな特徴があります。1つ目はパン屋を開業するためには多くの資金が必要な点、2つ目は1人でも開業が可能な点、3つ目は運転資金の確保が重要である点です。
パン屋開業に必要な資金
パン屋を開業するには多くの資金が必要です。家賃や光熱費、設備費、材料費などすべてを含めると高額になるケースがあります。また、従業員に給料を支払うための資金も考えなければなりません。
必要となる初期費用は、お店の規模や家賃、従業員数などにより大きく変わりますが、1000~3000万円程度を目安として考えておきましょう。ただし、居抜き物件など入居時のコストを抑えられる状況であれば、比較的安価な費用で開業することも可能です。
パン屋開業は一人でもできる?
1人でもパン屋を開業することは可能です。ただし、1人で大規模な店を営業するのは困難なので、営業時間を限定したり、作業の効率化を図ったり、さまざまな対策が必要でしょう。
また、1人でパン屋を開業する場合は必要資格は店主が取得する必要があります。店主が病気や怪我などで動けない状態になってしまえば、営業が困難になりますので、できれば日々の運営をサポートしてくれる方を確保することが望ましいといえます。
パン屋の運転資金
パン屋を経営していくには運転資金の確保が重要です。運転資金とはパン屋を経営するため、日々の経費に充てるものです。例えば毎月の家賃、水道光熱費、原材料の仕入れ代金、人件費、ローン返済費などがあげられます。
ただし、賃貸ではなく所有している物件で開業する場合は、月々の家賃がかからないので、運転資金を大きく削減できるでしょう。また、ローン返済は融資を受けていなければ発生せず、人件費も従業員の数によって変わります。このようにお店の経営規模などによって大きく必要となる資金が異なるため、しっかりとシミュレーションすることが大切です。
パン屋開業のメリット
パン屋を開業するメリットを3つ紹介します。これからパン屋を開業したいと考えている方は自分のイメージと合っているか確認しましょう。
自分のイメージ通りの店が作れる
パン屋を開業する場合、自分らしさを反映したお店を展開することができます。自分だけのこだわりのある店でオリジナルのパンを作れるというのは、パン作りに携わる方の多くが目標としているでしょう。
物件により一定の制限はありますが、内装や外観まで自身の希望通りの形にできるため、好きな空間で好きな仕事ができる理想的な環境を獲得することも可能です。
市場規模が大きい
パン屋の市場規模は大きいため、成長の可能性が高いといえます。国内パン市場は1兆5,000億円以上の規模がある需要の高い食品です。
また、パンというと朝食や昼食で食べるイメージが強くありますが、フランスパンやバラエティブレッドが広まり、スープやサラダ、アルコールと一緒に食べるケースなど、夕食需要も増加しています。
なお、2020年以降は新型コロナウイルスの感染拡大により外食を控える方が増加した結果、食パンやロールパンなど家庭で日常的に食べるタイプのパンの需要が伸びています。
未経験者でも始められる
パン作りの経験が浅くても、パン屋を始めることは可能です。専門的な資格が不要であり、パン職人を雇うことでカバーできるためです。
また、フランチャイズの場合、本部による研修制度が整っているので、短期間で知識や技術を習得できるため、より未経験者がチャレンジしやすい環境といえます。
パン屋開業のデメリット
パン屋を開業する場合のデメリットを紹介します。実際に開業する場合はデメリットへの対策を考えておくことが重要です。
競合が多い
パン屋は全国に多数あるうえ、スーパーやコンビニエンスストアでも販売されていることから競合が多いといえます。そのため、安定した経営を行うためには、食材やメニューにオリジナリティを出し、競合との差別化を図ることが大切です。
ただし、パン製造の知識や技術が豊富でなければ差別化を図るのは困難でしょう。もし未経験から始める場合は、ノウハウを提供してくれるフランチャイズ本部への加盟を検討することをおすすめします。
原材料価格が高騰しやすい
小麦粉や砂糖など、原材料の価格は変動しやすい特徴があります。原材料が上がってしまうと、コストを抑えることが難しくなり、利益を圧迫するケースが考えられます。
しかし、原材料が高くなったため、商品価格を値上げしてしまうと顧客離れが進んでしまうリスクがあります。そのため、販売しているパンのブランド価値や、競合の価格の動きなども参考に入れながら、バランスの良い価格設定を常に考えなければなりません。
初期費用が高め
パン屋を開業する際の初期費用は高額になりがちです。開業費用は、一般的な相場として、設備費用だけで300〜1000万円程度見込まなければならず、さらに業務用のオーブンや発酵器、冷蔵庫といった大型の設備は高価であり、これらのコストも考えれば、合計で2000万円以上の資金を用意しておく必要があるでしょう。
自己資金のみで賄うのは難しいため、金融機関からの融資を受ける場合がほとんどですが、希望通りの融資を受けられるかどうかは事業計画や経営する方の年収や預貯金の額によって判断されます。
パン屋開業に求められる資格
パン屋は無資格では開業できません。飲食店をはじめ食品を取り扱う営業では食品責任者が必須となるためです。また店の規模によっては防火管理者の選任が必要です。そのほか、パン製造技能士について解説します。
食品衛生責任者
食品衛生責任者とは、安全な食品を提供できる衛生管理の知識を持った人のことです。食品衛生法第48条により、特定の食品加工や添加物の製造を行う事業所では、食品を取り扱う施設ごとに製造または加工を衛生的に管理させるため、専任の食品衛生管理者を置かなかればならないことが定められています。
食品衛生法によって定められた食品に該当することから、食品衛生管理者の選任が必須となります。この資格は都道府県が管轄する養成講習会を受講することで取得できます。合計6時間の講習を受ける必要があり、各自治体に講習日程を確認して開業前に取得するようにしましょう。
なお、食品衛生管理者を置いたときは、15日以内に都道府県知事(保健所)に届け出なければならないため、遅れないように注意してください。
防火管理者
防火管理者とは消防法に定める国家資格で、防火管理上必要な業務を行う知識を持った人のことです。店舗の収容人数が30名を超える場合は、防火管理者を選任しなければなりません。
防火管理者の資格は消防法令で定める講習会の課程を修了することで取得できるため、最寄りの消防署などへ確認して必要な場合は早めに受講するようにしましょう。
もし防火管理者未選任の状況が続いていた場合、罰則が適用されるケースがあるほか、火事が発生して負傷者が出た際には重い罪が課せられる可能性もあるので、十分に注意してください。
なお、防火管理者には甲種と乙種があります。甲種を取得しておけば間違いありませんが、店舗の規模によっては乙種で問題ない場合もあります。ただし、延床面積や収容人数のほか、建物全体の用途も関係するため消防署などに事前に確認したうえで判断することをおすすめします。
パン製造技能士
パン製造技能士は、パン作りに関する知識と技術を持っていることを証明する国家資格です。学科と実技試験に合格することで取得できます。
必須資格ではありませんが、パン製造に関する唯一の資格なので、パン屋の開業を目指す方であればぜひ取得しておきたい資格といえます。
この資格には「特級」「1級」「2級」の3つの等級があり、それぞれ以下の受験資格が定められています。
特級:一級合格後、5年以上の実務経験者
一級:7年以上の実務経験者
二級:2年以上の実務経験者、短大や専門学校など養成学校の修了者
実務経験や指定科目を修了していない未経験の方では受験ができない資格ですが、実務経験を積んだ後、取得を目指すことをおすすめします。
パン屋を開業する手順
パン屋を開業するにはさまざまな手続きが必要です。店舗のコンセプトやメニュー、開業資金、資格取得など準備すべき事項が多くあります。以下に開業する場合の流れを7つのステップで解説します。
コンセプトやメニューを決める
パン屋を開業するための最初のステップは、コンセプトとメニューを決めることです。これにより、どのようなパン屋を開きたいのか、どのような商品を販売するのか、お店の方向性が定まるので、しっかりと時間をかけて考えましょう。
コンセプトは自分が情熱を傾けられるものであり、ターゲットとする市場にアピールできるような内容を選ぶことが重要です。また、パン屋は競合が多いため、他店との差別化を意識することも大切です。そしてコンセプトが決まった後、メニューを作成することになります。
コンセプトを決めることで、お店の内装や設備、初期費用など開業するためのプランが明確になるため、準備が進めやすくなります。
開業資金を調達する
2つ目のステップは、必要な資金を調達することです。投資や融資、個人の貯蓄などさまざまな方法で行うことができます。
パン屋を開業するための初期費用は、1000万円以上はかかるケースが多いため、自己資金だけでは困難です。そのため、融資を受けて開業する方がほとんどでしょう。金融機関から借り入れをするほか、無担保、連帯保証人不要で受けられる新創業融資制度という日本政策金融公庫による融資制度を利用する方法もあります。さまざまな手段を比較して、自分の使いやすい資金調達の方法を見つけることが大切です。
開業に必要な資格を取得する
3つ目のステップは必要な資格を取得することです。前述した食品衛生責任者は必須資格になりますので、必ず取得するようにしてください。また店の規模によっては防火管理者が必要になるほか、可能であればパン製造技能士を取得しておくことが望ましいです。
食品衛生責任者も防火管理者も講習により取得できる資格であり、難易度は高くありませんが、取得していない場合は店舗の営業開始までに間に合わせるように、講習の日程をしっかりとチェックしておきましょう。講習の参加人数が満席になると受講できませんので、早めに申し込んでおくことをおすすめします。
開業する場所・物件を決める
4つ目のステップは、開業する場所と物件を決定することです。立地条件は顧客が集まるかどうかに重要な影響を与えるため、慎重に検討するようにしましょう。
物件を探す場合は不動産会社へ訪問して、希望条件などを伝えることから始めます。立地のほか、予算や店の規模などできるだけ詳しく説明できるようにしてください。また、実際に現地を訪問して、どのような雰囲気の店になるかイメージを持つことが大切です。1件のみではなく、複数の物件を訪問して比較検討することをおすすめします。
開業に必要な事務続きを行う
5つ目のステップは、開業に必要な事務手続きを行うことです。開業をするためには税務署に開業届を提出しなければなりません。届出書はネット上で入手できるので、必要事項を記載して速やかに提出するようにしましょう。国税庁のホームページにある「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」にも書き方が掲載されているので、目を通しておくことをおすすめします。
なお、開業届は原則として開業から1ヶ月以内に提出するルールになっていますので、遅延することがないように注意してください。
保健所への「営業許可申請」を行う
6つ目のステップは、保健所への営業許可申請です。この許可は、パン屋などの食品を扱う店舗を営業する場合、必要になります。
申請書はネット上から入手できますが、申請書を提出する際に「店舗の図面」「水質検査成績書」「食品衛生責任者の資格を証明するもの」を用意する必要があります。賃貸の場合は、図面や水質検査成績書は物件のオーナーや不動産管理会社へ相談すれば入手できます。
なお、他の用途で使用していた物件を店舗に改修する場合は、許可申請の前に保健所に相談をして、物件が法律的な基準を見たしているかどうかの確認から行うようにしましょう。
宣伝広告をする
最後のステップは、お店の宣伝広告です。看板や折込チラシのほか、近年ではネット上での広告が主流になっています。お店のホームページやブログによる集客、ツイッターやインスタグラムといったSNSの活用などが有効なので、ぜひ活用してみましょう。
パン屋の開業は準備に多くの時間を要しますが、すべてのステップを丁寧に行うことが成功するためのポイントです。すぐに開業したい気持ちがあっても、焦らずに計画的に開業のステップを進めていくようにしてください。
パン屋開業の注意点
パン屋を開業するうえで特に注意すべき事項を3つ紹介します。自分のお店を構える場合、売り出すパンの種類や営業方法は自由に決められますが、以下の点は抑えておきましょう。
必要な資格と届出がある
前述したようにパン屋を開業するためには必須となる資格や届出があります。届出としては、開業届のほか、保健所への営業許可申請が必要です。これらの届出が行われていない場合、原則として営業できませんので必ず行うようにしてください。
また、資格に関しても食品衛生責任者が必須となるほか、店舗の規模や建物の用途によっては防火管理者の選任が求められます。開業をする前に消防署などへ選任の有無を確認するようにしましょう。
運転資金を用意すること
運転資金とは事業を行うために必要な資金のことです。例えば店舗の家賃や光熱費、材料・商品の仕入れ費用、従業員の給与、広告費などがあげられます。こうした費用は店舗の規模や立地条件などによって大きく異なるため、事前にどの程度の費用がかかるか積算することをおすすめします。
ただし、店舗を賃貸するのではなく自分の所有する物件で開業するのであれば、家賃が削れる分、運転資金は大きく削減できるでしょう。
原価率のコントロールが重要
パン屋の原材料である小麦粉は金額の変動が大きいため、原価率のコントロールが難しい傾向にあります。原材料価格が上がったからといって値上げをしてしまうと顧客離れが進み、結果的に収益の減少を招く可能性があるので、どの程度の値上げが望ましいか考えなければなりません。
状況によっては原価率の悪化を受け入れつつ、需要が高い商品に関しては値上げをして原価率向上を図るなど、バランスよく経営することが大切です。
まとめ
開業届は個人事業主として活動するためには、必ず提出する必要があります。提出直前になり焦ることがないよう、事前に準備するものをチェックしておくことをおすすめします。また、開業届の書き方や注意点も理解するようにしましょう。
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