開業届の業種はどう書くべき?職業欄の書き方と事業税を解説
開業届には、職業欄があります。職業欄には業種を記載しますが、どのように書いたら良いか迷ってしまう方も多くいるでしょう。
そこでこの記事では、開業届の職業欄の書き方や、職業欄に記載した内容と事業税の税率について解説します。個人事業主と法人の開業手続きの違いや、個人事業主として生計を立てるための方法についても解説していますので、ぜひご覧ください。
開業届の職業欄には事業内容の記載が必要
開業届とは、新しく事業を開始した時や、事業所などを新設した際に税務署に提出が必要な書類です。開業届には職業や事業内容を記載する欄があり、どのような事業を行うのか記載する必要があります。
職業や事業内容の書き方に、特に決まりはありません。とはいえ、どのように書いたら良いか迷ってしまうこともあるでしょう。そこで、書き方の例を紹介します。
(例)
職業 | 事業内容 |
文筆業 | Webサイトに掲載する記事の執筆 |
婦人服小売業 | 婦人服の販売 |
電気通信工事業 | インターネット設備の設置・撤去等の工事 |
自分の業種や事業内容をどのように書いたら良いか悩む場合には、税務署の窓口で相談してみるのもひとつの方法です。
開業届の職業欄の書き方と事業税との関係
開業届になぜ職業や事業内容を書かなければならないのか、複数の事業を行っている場合にはどうしたら良いのかと迷う方もいるでしょう。そこでここからは、開業届の職業欄の書き方と、事業税の関係について解説します。
開業届の職業欄は事業税に関わる
個人事業主が業務を行うにあたって、都道府県に事業税の納付が必要なケースがあります。地方税法で定められた70の業種に該当する場合には、地方税の支払いが必要です。地方税法に定められた70の業種は次の通りです。
区分 | 税率 | 事業の種類 |
第1種事業 | 5% | 物品販売業、運送取扱業、料理店業、遊覧所業、保険業 船舶定係場業、飲食店業、商品取引業、金銭貸付業、倉庫業、周旋業、不動産売買業、物品貸付業、駐車場業、代理業、広告業、不動産貸付業、請負業、仲立業、興信所業、製造業、印刷業、問屋業、案内業、電気供給業、出版業、両替業、冠婚葬祭業、土石採取業、写真業、公衆浴場業(むし風呂等)、電気通信事業、席貸業、演劇興行業、運送業、旅館業、遊技場業 |
第2種事業 | 4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
第3種事業 | 5% | 医業、公証人業、設計監督者業、公衆浴場業(銭湯)、歯科医業、弁理士業、不動産鑑定業、歯科衛生士業、薬剤師業、税理士業、デザイン業、歯科技工士業、獣医業、公認会計士業、諸芸師匠業、測量士業、弁護士業、計理士業、理容業、土地家屋調査士業、司法書士業、社会保険労務士業、美容業、海事代理士業、行政書士業、コンサルタント業、クリーニング業、印刷製版業 |
3% | あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復・その他の医業に類する事業、装蹄師業 |
事業税の税率は業種によって異なります。開業届を書くときには、自分の事業が上記の業種に該当するか、該当する場合、税率はどのくらいかを把握しておく必要があります。
確定申告書に記載した職業で事業税が決定する
開業届だけでなく、確定申告書にも事業内容を書く欄があります。開業届ではなく確定申告書に記載した事業内容で、事業税が決定します。
基本的には開業届と確定申告書で同じ事業内容を記載しますが、事業内容が途中で変わった場合や、複数の事業を行っている場合には、開業届と確定申告書で記載内容に違いが出るケースもあります。そのため、開業届に記載する事業内容は、難しく考えすぎず素直に自分の事業を記載すれば問題ありません。
複数の事業を行っている際には一番収入が多いものを記載する
複数の事業を行っている場合、開業届の職業欄には一番収入が多いものを記載します。複数の開業届を提出する必要はありません。ただし、屋号を使い分けたい場合には、複数の開業届を提出しなければならないケースもあります。
前述の通り、事業税の税率は確定申告書に書いた職業で決まります。複数の事業を行っている場合、確定申告書には自分が行っている事業を全て記載しなければなりません。確定申告書にどのように事業を記載すれば良いか迷う場合には、税理士などに相談しておくと安心です。
事業内容を変更しても開業届の再提出は不要
個人事業主の場合、さまざまな理由で事業内容を変更したり追加したりすることもあるでしょう。事業内容を変更しただけであれば、開業届を再提出する必要はありません。確定申告の際だけ、確定申告書に変更後の職業を記載しましょう。
開業に必要な手続きと費用
開業の際には、次のような手続きが必要となります。
- 開業届の提出
- 青色申告承認申請書の提出
- 事業に必要な届出や許認可の取得
- 事務所の準備
- 事業に必要な設備の準備
- 事業に必要な届出や許認可の取得
- 名刺やチラシなどの準備
どのような手続きを行わなければならないのか、どのような費用がかかるのか、それぞれの項目について詳しく解説します。
開業届の提出
個人事業の開業を税務署に申告するために提出するのが開業届です。開業届を出さなくても罰則はありませんが、開業届を出すことで青色申告が可能になる、屋号で銀行口座を作れるなどのメリットがあります。
開業届の用紙は税務署の窓口でもらうか、国税庁のHPからダウンロードしましょう。必要な項目を記入し、提出すれば手続き完了です。提出方法は次の3つです。
- 税務署への持参
- 郵送
- e-tax
開業届の提出に、費用はかかりません。郵送で提出する場合のみ、郵送にかかる料金が必要です。
青色申告承認申請書の提出
個人事業主になると、青色申告を利用できます。青色申告は控除額が大きく、損失の繰り越しができるなどメリットの大きい制度ですが、利用するためには青色申告承認申請書の提出が必要です。
青色申告承認申請書は、事業を開始した日から2ヶ月以内に提出が必要です。すでに事業を始めている場合、3月15日までに青色申告承認申請書を提出すれば、その年の所得を申告する際に青色申告の制度を利用できます。
青色申告承認申請書の用紙も、税務署の窓口でもらうか、国税庁のHPからダウンロードして入手できます。必要事項を記入して、税務署の窓口に持参もしくは郵送で提出してください。
青色申告承認申請書の提出も、郵送料以外の費用はかかりません。
事業に必要な届出や許認可の取得
業種によっては、開業に届出や許認可が必要な場合があります。届出や許認可が必要な業種には、次のような例があります。
業種 | 許認可の窓口 |
飲食店 | 保健所 |
古物営業 | 警察署 |
旅行業 | 都道府県 |
上記は、あくまでも一例です。開業前に、自分自身の業種はどんな許認可が必要な確認しておきましょう。許認可が必要な業種の場合、免許の取得や書類の作成に費用がかかる可能性があります。
事務所の準備
開業後、自宅以外の場所で業務を行う場合には、事務所や店舗が必要です。開業届には事務所や店舗の住所を記入する欄があるため、開業届提出前に準備を済ませておくとスムーズです。開業後に事務所や店舗に関する変更があった場合には「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出しなければなりません。
事務所や店舗を準備するには、敷金・礼金・保証金や必要に応じてリフォーム費用が必要です。
事業に必要な設備の準備
開業前には、事業に必要な設備も準備しなければなりません。
例えば、仕事用のパソコンや、店舗であれば什器なども必要になる場合があります。また、必要に応じてインターネット回線などの工事が必要になるケースもあります。まずはどんなものが必要かリサーチし、リストを作ってみましょう。どの程度の費用がかかるのかもリストに記載しておけば、設備全体にかかるおおよその費用を把握できます。
開業してから慌てずに済むよう、漏れのないリストを作り上げましょう。
名刺やチラシなどの準備
個人事業主としての名刺や、集客のためのチラシなどが必要になる場合もあります。また、Webサイトの制作が必要になる場合もあるでしょう。
名刺は、モノクロの片面印刷のものであれば100枚1,000円程度、チラシは片面カラーで5,000部1〜3万円程度が相場です。ただし、上記は印刷にかかる費用のみ。デザインを依頼する場合には、デザイン料も必要です。デザイン料は、名刺が1〜3万円程度、チラシが3〜5万円程度が相場です。
Webサイト制作にかかる費用は、どのようなサイトを作りたいかによって大きく異なりますが、20〜30万円程度かかります。こだわりを盛り込んだサイトを作る場合には、100万円を超える費用がかかる場合もあります。
予算についても考えながら、名刺やチラシ・Webサイトの制作を検討してみてください。
個人事業主と法人の開業の違い
個人事業主と法人にはさまざまな違いがありますが、開業の際の手続きにも差があります。ここでは、個人事業主と法人の開業手続きの違いを解説します。
個人事業主は開業届の提出のみで手続き完了
個人事業主の場合、開業手続きは基本的に開業届を提出するだけです。業種によっては行政などの許認可が必要な場合もありますが、そうでなければ開業届を提出するだけで手続きが完了します。
青色申告の制度を利用したい場合には青色申告承認申請書を提出しますが、こちらは開業に必須の手続きではありません。
法人は種類によって手続きが異なる
法人が開業する際には、会社登記や行政へのさまざまな手続きが必要です。具体的に必要な手続きは次の通りです。
手続きの種類 | 届出先 | 提出書類 |
法人税に関する手続き | 税務署 | 法人設立届出書青色申告の承認申請書給与支払事務所等の開設届出書源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書 |
法人住民税・法人事業税に関する手続き | 各都道府県税務署・市町村役場 | 法人設立届出書 |
健康保険・雇用年金への加入 | 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届健康保険被扶養者(異動)届 |
労働法に関する届出 | 労働基準監督署 | 労働保険保険関係成立届労働保険概算保険料申告書就業規則(変更)届適用事業報告書 |
雇用保険に関する届出 | ハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届雇用保険被保険者資格届 |
それぞれの手続きには期限があります。期限に間に合うよう、手続きを進めなければなりません。法人には、株式会社や合同会社などさまざまな種類があり、種類によって手続きが異なる場合もあります。また、申請から登記までにかかる時間も、法人の種類によって異なります。
副業でも開業届の提出は必要?
副業であっても、事業となる場合には開業届の提出が必要です。「事業」とは、営利などの目的を持った行動を、一度ではなく継続して行うことをさします。事業になるケースとならないケースの例は次の通りです。
事業になるケース | 事業にならないケース |
フリーランスのWebデザイナーとして継続的に案件を受注している | 知人に依頼されて1度だけWebデザインを行い、謝礼を受け取った |
近所の人から持ち込まれた古着を買い取り、インターネットで販売している | 自分自身で使わなくなった不用品をフリマアプリで販売した |
自宅の一角を店舗にし、ハンドメイド品を販売している | ハンドメイド品を売ってほしいという依頼があったため、そのときに限り作成・販売した |
開業届を出しておけば、事業で得た収入は「事業所得」として申告できます。事業でない場合の所得は雑所得となりますが、事業の場合には事業所得となります。
事業所得として認められると、さまざまな税務上の特典が利用可能です。特に副業の場合、給与所得との損益通算ができるのが、大きなメリットです。副業が赤字になった場合、給与所得から赤字分を差し引いて、税金額を計算できます。
開業届を出さなくても罰則はありませんが、出しておいた方がメリットが大きいことは覚えておきましょう。
個人事業主として生計を立てるための準備
開業届を提出すれば誰でも個人事業主になれますが、それだけで生計を立てることはできません。そこでここからは、個人事業主として生計を立てる方法を解説します。
仕事を獲得する方法を見つける
まずは、仕事を獲得する方法を見つけましょう。個人事業主が仕事を獲得するには、次のような方法があります。
- 実店舗を作ってお客さんが来るのを待つ
- 以前の職場の仕事を請け負う
- 知人に顧客を紹介してもらう
- クラウドソーシングサイトを利用する
- フリーランスエージェントを利用する
- SNSを利用して集客する
クラウドソーシングサイトとは、仕事を発注したい人と受注したい人が集まるマッチングサイトです。また、フリーランスエージェントとは、営業や契約書類の作成などを代行してくれるサービスです。
どのような方法で仕事を獲得しても問題ありませんが、一時的でなく継続的に収入を確保出来るか考えておく必要があります。
開業資金を用意する
業務の内容によっては、事務所や店舗、設備投資などが必要な場合もあります。そうした準備が必要な場合には、事前に開業資金を用意しましょう。
特に多くの資金が必要になるのが飲食店です。店舗の場所や建物を確保するだけでなく、飲食店が営業できるように、リフォームが必要な場合もあります。また、什器や設備なども準備しなければなりません。
そこで、便利なのが居抜き物件を利用することです。居抜き物件とは、前の店舗が利用していた内装や什器をそのまま残してある物件のことです。自分の営業スタイルに合わせてある程度のカスタマイズは必要ですが、ゼロから店舗を準備するより安い費用と短い工事期間で開店準備ができます。また、もともと飲食店があった場所に店舗を設置するため、近隣からの認知度が高い状態で開店できる点もメリットです。
開業にどれだけの費用がかかるかあらかじめ確認し、工面できるよう準備しておきましょう。
当面の生活費を確保しておく
個人事業主になる前に、当面の生活費を確保しておくことも必要です。
個人事業主になったからといって、すぐに仕事が見つかるとは限りません。店舗であれば、なかなかお客さんが来ない日が続くこともあるでしょう。また、最初は順調に集客できていても、急に収入が減ってしまうこともあります。
急に収入が減った場合でも対応できるよう、1年程度の生活費を貯金として確保しておけば、慌てずに次の行動を考えられます。
まとめ
開業届の業種に書き方の決まりはないため、自分の行っている仕事をそのまま書けば問題ありません。業種によって事業税の税率が違いますが、事業税を決定するのは確定申告書に書いた業種です。そのため、開業届よりも、確定申告書に業種を書く際に、より注意深く検討しなければなりません。
開業届だけでなく、他にも開業のために必要な準備は数多くあります。この記事を参考に、開業届にどんな業種を記載するかの検討を含め、開業準備を進めてみてください。