飲食店の開業に必要なものとは?準備するべき資金や資格などを解説
「飲食店の開業には何が必要なのだろうか?」と迷われている方も多いでしょう。一般的に、開業時は下記の手配が必要となります。
- 資格
- 物件
- 届出
- 資金
本記事では飲食店の開業に必要なものについて解説するほか、開業費用を抑える補助金や開業する際の注意点をご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてください。
※記載内容は2022年5月時点の情報です
飲食店の開業は一人でもできる
飲食店を開業する際に「従業員を雇わなくてはならないのだろうか」と不安を感じる人もいるでしょう。従業員を雇うためには、採用費用や育成時間がかかるほか、労働環境を整える必要もあります。従業員を雇うことに懸念を感じる方であれば、まずは小さな飲食店から始めて、一人もしくは家族で運営することを検討してみると良いでしょう。
飲食店を開業するために必須のスキル
飲食店を開業するためには「ファイナンス」「経営」「メニュー開発」「調理」など、さまざまな知識が必要となります。ファイナンスや経営などの会社運営に関する知識だけでは飲食店の成功は難しいですし、一方でメニュー開発や調理に関する知識だけでも上手くは行きません。先輩経営者に話を聞いたり、書籍を読んだり、他の飲食店で修行をしたりして、網羅的に知識を得たうえで開業に取り組みましょう。
飲食店の開業に必要なもの:資格
飲食店を開業する際には資格が必要となります。取得必須なのは「食品衛生責任者 」のみですが、店舗面積によっては「防火管理者」も取得義務があるでしょう。それぞれの資格について、取得条件や費用を解説いたします。
食品衛生責任者
食品衛生責任者は食品を取り扱う店では必須の資格となります。従業員のうち必ず1名は取得している必要があり、もし有資格者が不在の場合は2年以下の懲役または200万円以下の罰金(食品衛生法)が科される場合もあるため、注意が必要です。
取得するためには、各地域の保健所で実施されている講習を受ける必要があります。費用はおよそ1万円で、計6時間の講座を受講することで取得が可能です。テストは講義内容から出題されるため、しっかりと受講していれば心配ありません。
また、開店までに取得できない場合は、保健所の窓口にて下記2ついずれかを提出する必要があります。
- 食品衛生責任者設置誓約書
- 食品衛生責任者講習会の受講予約票
食品衛生責任者は一度取得してしまえば更新が不要な資格です。取得後から一定期間を経た後に研修こそ実施されますが、そこまで負担もかからないものなので、ぜひ開業前に取得することをおすすめします。
防火管理者
収容人数が30人を超える飲食店では、防火管理者の有資格者が必要となります。注意していただきたいのが、この「30人」は従業員を含む人数である点です。座席数が25席でも、従業員が常時5人以上いる場合には取得が必須となります。また、仮に飲食店の収容人数が30人を下回っている場合でも、建物全体の収容人数が50人を超えていればテナントごとに取得が必要なため注意が必要です。
加えて、床面積に応じて必要となる資格が異なります。延床面積が300平方メートル以上の場合は「甲種防火管理者」、300平方メートル未満の場合は「乙種防火管理者もしくは甲種防火管理者」を設置する義務があります。
取得する場合は、各地域で実施される講習の受講が必須です。費用は5,000円〜7,000円ほど。期間は甲種が2日(約10時間)、乙種が1日(約5時間)を要します。開業前までに必ず取得する必要があるため、スケジュールに余裕を持って取り組みましょう。
飲食店の開業に必要なもの:物件
キッチンカーやデリバリー専門店でない限り、物件は必須です。購入する(もしくは借りる)などして早めに手配しておきましょう。
初期費用を安く抑える方法
できるだけ初期費用を抑えたい方には「居抜き物件」がおすすめです。居抜き物件とは、前のテナントが内装や設備を残したまま貸してくれる(売ってくれる)物件のこと。前のテナントは撤去費用がかからず、また借りる側(買う側)も内装工事や設備購入などの初期費用を抑えられることから、双方にとってメリットが大きい不動産取引となります。
一般的にスケルトン(※1)の状態から内装工事を行う場合、平均30万~50万円/坪(※2)の費用がかかると言われますが、居抜き物件を活用すれば平均15万~30万円/坪(※2)に抑えることも可能です。内装デザインに強いこだわりがなければ、工事費用を0円に近い金額まで抑えることも不可能ではありません。
※1)内装や設備などが何もない状態の建物のこと
※2)あくまで目安です。内装設備を大幅に変更する場合は費用が高くなります
また、居抜き物件は大掛かりな工事がないため工期を短く抑えられます。あくまで目安ですが、店舗面積が30坪で大掛かりな工事が必要ない場合、物件の引き渡しから2週間ほどで開業することも可能です。
居抜き物件を探す際には「Tempodas」のような専門サイトでチェックしましょう。合計20,000件以上の未公開賃貸物件の情報が手に入ります。周辺店舗の状況や人の流れを把握することも可能です。利用料金は一切かからず無料で登録できるため、ぜひご利用を検討してみてください。
物件選びのポイント
物件を選ぶ際には下記2つのポイントに注意しましょう。
①建物を現地で確認する
最近こそオンライン内見が流行っていますが、必ず現地に行って自分の目で物件を確認してください。「近隣には競合店舗がどれほどあるのか」「人通りはどれほどあるのか」「建物に不備はないか」など、現地に行かないと分からないことが多々あります。
とくに安い金額で提示される物件には注意が必要です。過去に事件や事故があったり、近隣住民とのトラブルがあったりなど、目には見えない欠陥が潜んでいる可能性もあります。仲介してくれる不動産会社や、他の不動産会社からも情報を集めて懸念点を払拭してから契約をしてください。
②設備や機器の状況を確認する
とくに居抜き物件で契約する場合は、内装設備や常設機器の状況も確認が必要です。契約後に故障が発生した際には、新たな所有者である自分で修理を行う必要があります。故障可能性や耐用年数、保証書の有無まで隈なくチェックしておきましょう。
また、リース品やレンタル品の有無も聞いておきましょう。仮に存在を知らず契約をしてしまうと、契約後に料金を請求される、もしくは返却を要求されるなど、予期せぬ事態も起こりかねません。
契約時の注意点
契約内容には隅から隅まで目を通してください。居抜き物件を契約する際には、物件に関する「賃貸借契約」と内装設備を譲り渡す「造作譲渡契約」が必要となります。とくに退去時の原状回復については、今ある内装をそのまま使った場合でも撤去費用が必要なのかを確認しておくと良いでしょう。
飲食店の開業に必要なもの:届出
飲食店の開業には届出も必要となります。
飲食店営業許可
食品営業許可は、いずれの飲食店でも必須のものとなります。もし許可を得ずに営業した場合は、食品衛生法違反に該当するため2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課されるので注意が必要です。
取得するには「食品衛生責任者の設置」「保健所の審査クリア」の2点が必須条件となります。保健所に連絡をしたうえで、手順に従い申請を行いましょう。費用は地域によって異なりますが約10,000円〜20,000円ほどで、申請から許可までには約2〜3週間かかります。スケジュールに余裕を持ったうえで、取り組み始めてください。
また、喫茶店を開業する場合は「喫茶店営業許可」でも代替可能です。しかし、その場合は茶菓を中心とした既製品のみしか提供できず、手料理は提供できないためご注意ください。
深夜酒類提供飲食店営業
午前0時〜6時の間に営業する場合には「深夜酒類提供飲食店営業 」という届出が別途必要となります。こちらも届出がない場合は50万円以下の罰金が課されますので注意が必要です。申請から許可までは約10日で済むため早めに申請しておきましょう。ちなみに居酒屋やバーを開業する場合、申請は不要です。
個人事業主の開業・廃業等届出書
個人事業主として開業をする場合、開業届を税務署に提出する必要があります。仮に提出をしなくても罰則規定はありませんが、確定申告における「青色申告」ができなかったり、屋号で銀行口座を開設できなかったりなど、不便が生じてしまいます。そのため、原則として開業日から1ヶ月以内に提出することをおすすめします。
申請用紙は全国の税務署か国税庁の公式サイトより取得可能です。内容を記載のうえ管轄エリアの税務署にて「マイナンバーカード(もしくはマイナンバーが確認できる書類と本人確認ができる書類)」「印鑑」「青色申告承認申請書」を、ご持参のうえ提出してください。
飲食店の開業に必要なもの:資金
飲食店の開業には少なくとも1,000万円ほどが必要となります。内訳は主に「物件取得費」「内装工事費」「調理機器費」の3つ。それぞれ目安金額をご紹介いたします。
①物件取得費
物件取得にかかる費用は主に「保証金」「礼金」「仲介手数料」「前家賃」の4つです。保証金は契約終了後に残額が返金されますが、そのほかは返金されませんのでご注意ください。
- 保証金:賃料の3ヶ月〜10ヶ月分
- 礼金:賃料の1ヶ月〜2ヶ月分
- 仲介手数料:賃料の1ヶ月が上限
- 前家賃:賃料の2〜3ヶ月分
都市部、駅チカの物件ほど賃料が高くなる傾向にあります。
②内装工事費
壁や床の塗装、厨房の設置など内装に必要な工事費用です。居抜き物件とスケルトン物件で目安となる工事費用は異なります。
- スケルトン物件:平均30万~50万円/坪
- 居抜き物件:平均15万~30万円/坪
また、内装工事費は業種によっても異なります。たとえば中華料理屋や焼肉屋などの火力が伴う業種では、ガス容量の大きなコンロや排煙設備が必要となるでしょう。その分だけ、初期費用も高くなります。
③調理機器費
「オーブンレンジ」「フライパン」「鍋」など、調理機器の準備にもお金がかかります。想定される集客数や提供する料理によって、必要となる種類・数は変わりますが、おおよそ数10万円〜100万円ほどは想定しておきましょう。
調理機器は一つひとつこだわると初期費用が無限にかかってしまいます。「使うべきところ」と「抑えるべきところ」をあらかじめ決めたうえで購入を検討してください。
飲食店の開業に使える補助金
飲食店の開業時(もしくは開業後)に使える補助金をご紹介いたします。主に代表的なのは「創業補助金」と「小規模事業者持続化補助金」の2つです。それぞれ申請方法や支給金額も合わせて参考にしてみてください。
創業補助金
創業補助金とは、国や地方自治体から交付される開業支援金のこと。たとえば東京都を例に挙げると下記のような条件で支給されています。
- 対象となる方:都内で創業を予定されている方または創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件を満たす方
- 助成対象期間:交付決定日から6か月以上2年以下
- 助成限度額:上限額300万円、下限額100万円
- 助成率:助成対象と認められる経費の2/3以内
- 助成対象経費:賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費
出典:東京都創業NET
基本的に補助金・助成金は返済不要なケースが多いです。一般的にサラリーマンとして働いていると、開業資金を貯めるまでに多くの時間を要してしまいます。活用できるサポートは最大限利用して、開業の負担を抑えましょう。
各地域ごとに補助金の金額や条件は異なります。詳細は公式サイトよりご確認ください。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、日本商工会議所から支給される補助金です。
- 対象となる方:商工会議所の管轄地域内で事業を営んでいる「小規模事業者」及び、一定の要件を満たした特定非営利活動法人
- 助成限度額:一般型50万円、低感染リスク型ビジネス枠100万円
- 助成率:取組に使用した額の2/3以内
- 助成対象経費:機械装置等費、広報費、展示会等出展費、旅費、開発費、資料購入費、雑役務費など
給付には審査があるため、まずは商工会議所で事業支援計画書を作成、日本商工会議所(補助金事務局)あてに申請書類を送り、審査を待ちましょう。審査には申請から約2ヶ月ほどかかります。また、申請から入金まで1年ほどかかる場合もあるため注意が必要です。
飲食店を開業する際の注意点
飲食店の成功は一筋縄ではいきません。開業前に下記3つの点に注意して、少しでも成功確率を高めて取り組みましょう。
資金を集める前に物件を検討する
初期費用やランニング費用のうち、物件は大きな割合を占めるものです。そのため資金を集める前に、まずは物件費用にいくらかかるのか試算をしましょう。立地や面積などの条件で、物件費用の目安はおおよそ定まりますので、不動産仲介会社に問い合わせてみることをおすすめします。また、資金を集める際には「貯金」「知人や家族からの借金」が一般的ですが、それでも足りない場合には「日本政策金融公庫」という政府系金融機関に融資を打診しましょう。経営実績のない小規模事業者でも、きちんとした創業計画書や熱意があれば融資を受けられる可能性が高いと考えられます。
集客方法は予め検討しておく
集客方法は開業前から検討しておきましょう。「美味しい料理」と「ひと目につく立地」があれば、お客さんが来るわけではありません。競合店舗との差別化が図れないとなかなか来店数を増やすことは難しいでしょう。最近では、飲食店ポータルサイトへの掲載やSNSでの情報発信など、インターネット上での積極的な露出が重要となります。ビジュアル的に訴求したい場合は「Instagram」、テキストで想いを綴る場合は「Twitter」がおすすめです。また、一度来店してくれたユーザーには「LINE」の友達登録で繋がりを作っておけば、リピートしてもらえる可能性もあります。各チャネルの特性を理解したうえで集客方法を模索しておきましょう。
お店のコンセプトを大切にする
お店のコンセプトを定めることで、インターネット上で発信した際、もしくは一度来店してもらった際に、お客さんに強い印象を与えることができます。壁紙や床、食器や料理などを通じて独創的なコンセプトを伝えましょう。コンセプトを具体化するには「5W2H」の手法を取り入れてみてください。
- why:なぜお店を始めるのか
- who:誰にサービスを提供するのか(年齢・性別・属性)
- what:何の料理を提供するのか
- where:どのような立地で提供するのか
- when:営業時間・定休日はいつか
- how much:価格帯はどれくらいか
- how:どのように提供するのか(雰囲気など)
競合店舗との差別化ができれば、数あるお店の中から選ばれるきっかけとなるはずです。
必要事項を把握してスムーズに開業を進めよう
飲食店を開業する際には「食品衛生責任者」「防火管理者」「飲食店営業許可」の取得、初期費用の用意、物件の取得など、事前に取り組むべきことが多々あります。それぞれスケジュールが定められているため、まずは必要事項を把握したうえで時間に余裕を持って取り組みましょう。
また、補助金やリース品・レンタル品の契約など初期費用を抑える方法も複数あります。うまく活用すれば初期費用・固定費用を抑えられるので、他の集客チャネルにも予算を割けられるでしょう。